砂に埋もれる犬
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- ¥2,000
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発行者による作品情報
小学校に通わせてもらえず、日々の食事もままならない優真。男にばかり夢中でネグレクトを続ける母との最悪な生活のなか、手を差し伸べるコンビニ店主が現れるが──。虐待によって家族からの愛を受けぬまま思春期を迎えた少年の、乾いた心の在りようを物語に昇華させた傑作長編。
APPLE BOOKSのレビュー
人間の心の深奥に潜む闇を真正面から描き、思わず目をそらしたくなるような内容ながらもその筆力で読者をつかんで離さない。そんな作品群でおなじみの桐野夏生がネグレクトをテーマに描いた『砂に埋もれる犬』。小学4年生の優真は男と遊びほうけている母に放置され、その日の食べ物にも困る暮らしを送っていた。そんな中、優真は近所のコンビニ店主、目加田から廃棄弁当をもらうようになる。やがてその時の縁から目加田が優真の養育里親になるが、食べ物さえあれば満足できると思っていた少年に待ち受けていたのは、周囲の人々との決して埋められない溝だった。生まれた時から情愛を享受し、常識や知識を学んできた彼らと異なり、友人の作り方も分からず、次第にそのうっ屈を先鋭化させていく優真。微かに流れていた不協和音が徐々に高鳴り、不穏な空気が濃厚に満ちていく。そこに描かれているのは単純な再生へのドラマではない。だからこそ、過酷な環境から抜け出した被虐待児が本当の意味での癒やしを得て、社会に適応することの困難さについて、つくづくと感じさせられる。