花のあと
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- ¥570
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発行者による作品情報
娘ざかりを剣の道に生きた以登(いと)。色白で細面、醜女ではないのだが父に似て口がいささか大きすぎる。そんなお以登にも、ほのかに想いをよせる男がいた。部屋住みだが道場随一の遣い手、江口孫四郎である。許婚の決まった身ながら、お以登は一度だけ孫四郎との手合わせを望む──。老女の昔語りとして端正に描かれる異色の武家物語は、北川景子主演の映画化原作。表題作ほか、藤沢周平の円熟期の秀作を“町人物”と“武家物”併せて七篇収録。
APPLE BOOKSのレビュー
時代小説のベストに挙げられることも多い、味わい深い8作品が並んだ短編集。たった一度立ち会っただけの初恋相手の敵討ちを誓う女剣士を描いた表題作「花のあと」。浮気が発覚して主人を殺し、義理の息子に罪を着せようとする大店のおかみの手口を暴く「疑惑」。武家、町人共に封建制度の下で生きる女性の人情を丹念に描き、作品に普遍的価値を与えている。しきたりや伝統によって女性の活動に制約が課せられていた時代で、時にそのルールさえ飛び越えて自分の生き方を貫く女性たちの姿は輝いて見える。また、実在の絵師、歌川広重の名作『東海道五十三次』が作られた前後を描き、北斎へのライバル心をのぞかせる「旅の誘い」も小品ながら秀作。作品全体を通して美しい風景描写で彩られており、肌寒い冬の朝、早春の雪解け、春の桜といった四季折々の情景から、薄暗い土間や雨後の白い雲などの景色まで、まさに広重の絵のように臨場感たっぷりで、その風景の中で生きる人々の姿が、切なくも愛おしく思える。