新装版 虚無への供物(上)
-
- ¥880
-
- ¥880
発行者による作品情報
昭和二十九年の洞爺丸沈没事故で両親を失った蒼司(そうじ)・紅司(こうじ)兄弟、従弟の藍司(あいじ)らのいる氷沼(ひぬま)家に、さらなる不幸が襲う。密室状態の風呂場で紅司が死んだのだ。そして叔父の橙二郎(とうじろう)もガスで絶命――殺人、事故?駆け出し歌手・奈々村久生(ななむらひさお)らの推理合戦が始まった。「推理小説史上の大傑作」が電子書籍で登場。(講談社文庫)
APPLE BOOKSのレビュー
独自の耽美的作風で推理小説や幻想小説を手掛けた作家、中井英夫が1964年に発表した代表作「新装版 虚無への供物(上)」。不審死が連続する氷沼家で起きる、不可解な殺人事件。ミステリー好きな登場人物たちが行う考察により、さらに謎が深まっていく。“呪われた一族”や“密室トリック”といったミステリー小説の定番の要素を取り入れつつ、個性豊かなキャラクターたちが奇想に満ちた推理を披露しては“真相”が次々と覆っていく展開が魅力。物語の序章で、まだ殺人事件が起きていないのに登場人物が犯人を見つけることを宣言するなど、通常の探偵小説に異を唱えるかのような意表を突く描写で、読者を混沌(こんとん)とした魅惑の世界へと引き込んでいく。ミステリーファンの予想を上回る奇抜なアイデアに満ちた内容で、発表から時がたってもいまだ人々に読み継がれている名作。細部にわたる登場人物の服装の描写や、名前に誕生石を絡めるこだわりなど、著者の優れたセンスにも注目したい。