ここはすべての夜明けまえ
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4.3 • 10件の評価
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- ¥1,400
発行者による作品情報
2123年10月1日、九州の山奥の小さな家に1人住む、おしゃべりが大好きな「わたし」は、これまでの人生と家族について振り返るため、自己流で家族史を書き始める。それは約100年前、身体が永遠に老化しなくなる手術を受けるときに提案されたことだった
APPLE BOOKSのレビュー
命と人間性の本質に迫る物語でSF界に旋風を巻き起こした、間宮 改衣のデビュー作。物語の舞台は2123年。100年前に父親の勧めで融合手術を受け、老化しない機械の体を手にした“わたし”は、これまでの人生を振り返るべく、自己流で家族史を書き始める。平仮名を多用した独特の文体は、慣れるまで少しだけ時間がかかるかもしれない。しかし、おしゃべりが得意だと自任する“わたし”のつづる文章もまたおしゃべりのようで、徐々にその語り口に引き込まれていく。明らかになっていくのは彼女と家族の間にあった歪(いびつ)な愛であり、根深い虐待と搾取の構造であり、そして永遠の命という名の孤独だ。感情の表面を軽くなぞって消えていくような彼女の言葉は、どこか淡々としているが、淡々としなければ100年の重みに耐えられなかったのだろうということに気付かされる。“死”が存在しない命を生きる者は、果たして本当に生きていると言えるのだろうか…。読み進める中で、何度もそんな問いかけが胸に去来する。人生でたった一つでいいから、間違っていなかったと思えることがしたいと願った彼女が最後に下した選択は、本当に“生きる”ためのそれだったのかもしれない。