ともぐい
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- ¥2,000
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発行者による作品情報
明治後期の北海道の山で、猟師というより獣そのものの嗅覚で獲物と対峙する男、熊爪。図らずも我が領分を侵した穴持たずの熊、蠱惑的な盲目の少女、ロシアとの戦争に向かってきな臭さを漂わせる時代の変化……すべてが運命を狂わせてゆく。人間、そして獣たちの業と悲哀が心を揺さぶる、河﨑流動物文学の最高到達点!!
APPLE BOOKSのレビュー
第170回直木賞受賞作。北の大地に暮らす人々の過酷な人生と、その命の重みを問い続けてきた作家、河﨑秋子。自らも北海道の酪農家に生まれ、元羊飼いという異色の経歴を持つ彼女が本作で描くのは、一人の男と熊との壮絶な命のやり取りの物語だ。舞台となるのは明治後期の北海道東部。人里離れた山中で暮らす主人公、熊爪は獣を狩り、その肉を自らさばき、売り歩くことで生計を立てていた。しかし明治の世となった今、獣の肉は店先で買えるようになりつつあった。そんな時代に背を向け、孤独に獣と向き合い続ける熊爪だったが、どう猛な熊“穴持たず”との死闘や、盲目の少女との出会いを経て、彼の人生にも大きな転機が訪れる。解体された獣から滴る鮮血や、生温かな臓物から立ち上る湯気の描写は、時に言葉を失うほど強烈でリアルだ。読者の喉元に迫るその肉と血のリアリティは、極限まで追い詰められた人間の、生への渇望をも浮かび上がらせていく。本作が刊行された2023年は全国で熊の被害が相次ぎ、駆除の是非について議論が活発化した年だった。そこで問われた命を巡る倫理観は一方的なものではなく、人と獣の双方に問われるべきものだという河﨑の思いが、タイトルの“ともぐい”にも込められているのではないだろうか。