ばにらさま
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- ¥700
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発行者による作品情報
二度読み必至!
伝説の直木賞受賞作『プラナリア』に匹敵する、
光と闇が反転する傑作短編集。
1,「ばにらさま」僕の初めての恋人は、バニラアイスみたいに白くて冷たい……。
2,「わたしは大丈夫」夫と娘とともに爪に火をともすような倹約生活を送る私。
3,「菓子苑」気分の浮き沈みの激しい女友だちに翻弄されるも、放って置けない。
4,「バヨリン心中」余命短い祖母が語る、ポーランド人の青年をめぐる若き日の恋。
5,「20×20」主婦から作家となった私は、仕事場のマンションの隣人たちと……。
6,「子供おばさん」中学の同級生の葬儀で、遺族から形見として託されたのは。
以上6編を収録。
日常の風景の中で、光と闇を鮮やかに感じさせる凄み。
読み進むうちにぞっと背筋が冷えるような仕掛け。
「えっ」と思わず声が出るほど巧みな構成。
引きずり込まれる魅力満載の山本文緒文学!
2021年10月に惜しくも逝去した著者最後の小説集。
解説=三宅香帆
※この電子書籍は2021年9月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
APPLE BOOKSのレビュー
恋愛感情や女性の心理の卓越した描写で知られる山本文緒のストーリーテリングを存分に堪能できる、久しぶりの短編集。バニラアイスのように色白の美しい彼女から告白された、さえない男(「ばにらさま」)。若き日の恋を回想する余命いくばくもない老女(「バヨリン心中」)。困窮した生活の中で、抑えきれない感情を爆発させる主婦(「わたしは大丈夫」)。疎遠になっていた友人の葬儀で、遺族からあるものを託された中年女性(「子供おばさん」)他、それぞれの時間と場所で生きる5人の主人公の物語が収録されている。各話の執筆された時期には幅があるが、そのすべてが山本の神髄と呼ぶべき細やかな描写、そしてさりげなく大胆な展開によって統一されている。甘やかな恋愛関係に潜む苦味や、日常に宿るサスペンス、ダメな人間のふとした愛しさなど、感情や物事に常に多面性を見いだす彼女の物語は、気付いたころには始まりの場所からはるか遠い終着点にたどり着いている。しかも読み返すたびに新たな着地点の可能性があることを気付かせる、その重層的な構造にも改めてうならされる。2021年10月に亡くなった山本の生前最後の作品であり、どこまでも彼女らしい言葉のきらめきによって編まれた珠玉の物語集だ。