ギフト 西のはての年代記I

APPLE BOOKSのレビュー

アーシュラ・K.ル=グウィンの「ギフト 西のはての年代記I」。ル=グウィンは、世界で多くの読者の心をとらえた人気作品「ゲド戦記」シリーズなどの著者として知られる。本作は彼女が手掛けた3部作ファンタジー小説の一作目。主人公は高地と呼ばれる山深い地域に暮らすオレックという10代の少年。ここには、ギフトと呼ばれる不思議な力を持った人々がいる。近隣の一族との勢力争いの中、オレックが父から受け継いだ強大で破壊的な能力のギフトに対する葛藤といかに向き合い、自分の進むべき道を見いだしていくかを丁寧に描いている。物語は主人公の一人語りで展開するため、成長期の若者の揺れる心を追体験しながら読み進められる。父母や幼なじみの少女、放浪者のエモンなどさまざまな人と関わりながら、紆余曲折を経て大人への階段を一歩ずつ上っていく過程は読み応えがある。風土や風習の的確な描写により、舞台設定が現実味を帯び、個性的なギフトの内容と相まって、登場人物が生き生きと感じられる秀作。