ハリガネムシ
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3.6 • 9件の評価
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- ¥760
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発行者による作品情報
私は風呂無しアパートに住む、高校の倫理教師。サチコが、突然アパートに押しかけてきた日から、私は堕ちはじめた。入浴料二千五百円、サービス料一万二千円の店で働く痩せたソープ嬢。手首には無数のためらい傷。2人の奇妙な共同生活の中で、セックスと暴力だけが加速していく。その果てにあるのは? 人間存在の深奥を見据えて深い感動をよぶ傑作小説。「笑い、怒り、おぞましさ……これほど感情を翻弄された小説は久しぶりです」と山田詠美氏激賞の、戦慄の芥川賞受賞作!
APPLE BOOKSのレビュー
第129回(2003年上半期)芥川賞受賞作。暴力的、グロテスクとも評される独自の小説世界を作り上げ、人間の根源に潜む欲望や本性を描き続ける作家、吉村萬壱の代表作。小さなアパートで1人暮らしをしながら、高校教師として倫理の授業を受け持つ中岡慎一は、ある日、客として一度だけ接した風俗嬢のサチコと再会する。軽い気持ちで関係を始めた慎一だったが、幼稚な言葉遣いと行動で、社会の最底辺を這うように生きるサチコとの時間を過ごすうちに、心の中に秘めていた暴力性や暗い欲望が首をもたげはじめる。そして、慎一がついた一つの「嘘」をきっかけに、2人はさらに深い闇に落ちていく…。「ハリガネムシ」とは、宿主のカマキリの脳を操る寄生虫のこと。生徒たちに倫理を説いてきた慎一が、社会の暗部で生きてきたサチコとの関係を通じて、自分でも気付かなかった欲望にじわじわと支配されていく姿をまさに言い当てたタイトルだ。かつて高校教師として勤務していた吉村本人の経験に基づく、恐ろしいほどリアリティにあふれた描写の数々も、読者を一気に物語に引き込む本作の大きな魅力になっている。