先生のお庭番
-
- ¥690
-
- ¥690
発行者による作品情報
出島に薬草園を造りたい。依頼を受けた長崎の植木商「京屋」の職人たちは、異国の雰囲気に怖じ気づき、十五歳の熊吉を行かせた。依頼主は阿蘭陀から来た医師しぼると先生。医術を日本に伝えるため自前で薬草を用意する先生に魅せられた熊吉は、失敗を繰り返しながらも園丁として成長していく。「草花を母国へ運びたい」先生の意志に熊吉は知恵をしぼるが、思わぬ事件に巻き込まれていく。
APPLE BOOKSのレビュー
江戸時代後期に来日した医師/博物学者のシーボルトに仕えた若き庭師を主人公に、複雑な境遇を生きる人々の人生模様と、日本の豊かな自然を描く物語。仕えていた植木商の主に追い出されるようにして、長崎の出島に奉公することになった熊吉。彼はそこで青灰色の瞳を持つ医者の“しぼると先生”と出会い、薬草園の施工を命じられる。経験が浅いながらも懸命に励む熊吉は、しぼると先生の妻である滝や、使用人の“おるそん”と親交を温めながら、職人としてめきめきと頭角を現していく。しかし、しぼると先生が帰国する話に伴って物語は大きく動き出す。熊吉がしぼると先生の学識を通じて知る日本の自然は、豊かで美しい。歴史的事実として“シーボルト事件”を知っていても、先生を敬愛する熊吉の人間味のある視点でその顛末(てんまつ)を見ると、新たな衝撃と感慨を覚える。熱くスリリングな職人小説であり、ドラマチックな人生の物語に引き込まれると同時に、自然と人間との関わり方についても深く考えさせられる。