吉原手引草
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3.9 • 26件の評価
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- ¥730
発行者による作品情報
廓遊びを知り尽くしたお大尽を相手に一歩も引かず、本気にさせた若き花魁葛城。十年に一度、五丁町一を謳われ全盛を誇っていたまさにそのとき、忽然と姿を消した。一体何が起こったのか? 失踪事件の謎を追いながら、吉原のすがたを鮮やかに描き出した、時代ミステリーの傑作。選考委員絶賛の第一三七回直木賞受賞作。
APPLE BOOKSのレビュー
第137回(2007年上半期)直木賞受賞作 - 長年歌舞伎の世界に携わり、時代小説家として華々しい実績を誇る松井今朝子の作品。美貌と気位の高さで人気の遊女、葛城が理由も経緯も一切不明なまま突如失踪。そしてある一人の客が関係者に話を聞いて回る。店主から使用人、芸者から船頭にいたるまで、彼らの独白が吉原の実情と葛城という人物像を浮かび上がらせ、意外な結末に導いていく。全編がインタビューで構成されたミステリアスな時代小説で、表には登場しない主人公と読者が、一体となって徐々に真相に近づいていく。何でもないような告白の断片が複雑に絡み合い、つながっていく構成が見事。吉原という隔絶した世界を舞台に、江戸時代の大衆文化や風俗を克明に描き、幇間(ほうかん)や女衒(ぜげん)といったさまざまな職業の実態、そこで生きる人々の愛憎と底力を垣間見ることもできる。歌舞伎を通して歴史に精通する著者ならではの深い描写と、舞台脚本のようなテンポの良さが光る。