昭和の犬
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3.6 • 9件の評価
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発行者による作品情報
昭和三十三年滋賀県に生まれた柏木イク。気難しい父親と、娘が犬に咬まれたのを笑う母親と暮らしたのは、水道も便所もない家。理不尽な毎日だったけど、傍らには時に猫が、いつも犬が、いてくれた。平凡なイクの歳月を通し見える、高度経済成長期の日本。その翳り。犬を撫でるように、猫の足音のように、濃やかで尊い日々の幸せを描く、第150回直木賞受賞作。
APPLE BOOKSのレビュー
第150回(2013年下半期)直木賞受賞作。昭和33年に滋賀に生まれた柏木イクという一人の女性の何げない日常を、犬と共にいる風景として描いた連作形式の長編小説。乳児の頃から人に預けられていたイクが5歳で初めて実父母と同居する様子を描いた「ララミー牧場」から、49歳のイクが東京と滋賀を往復する日々をつづった「ブラザーズ&シスターズ」まで、各章のタイトルは当時日本で放送されていたアメリカのドラマにちなむ。シベリア帰りの理不尽で無口な父と、結婚生活に絶望し家庭にも娘にも無関心の母。初めての親子水入らずの暮らしにもかかわらず、便所すらなく、決して「3人で話す」ことのない「よその人の家」のような家。毒親に苦労しながらもささやかに暮らすイクの姿が、昭和の日本の風俗と共に描かれている。昭和の犬は放し飼いが普通であった。エサは残飯。洋服なんて、決して着ていなかった。そして、イクのそばには、気付けばいつも犬がいた。犬をなでる、という行為が持つ祈りのような作用がじんわり心に響く。