岬
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3.8 • 12件の評価
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- ¥540
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発行者による作品情報
作家の郷里・紀州の小都市を舞台に、のがれがたい血のしがらみに閉じ込められた青年の、癒せぬ渇望、愛と憎しみ、生命の模索を鮮烈な文体でえがいて圧倒的な評価を得た芥川賞受賞作。この小説は、著者独自の哀切な主題旋律を初めて文学として定着させた記念碑的作品として、広く感動を呼んだ。『枯木灘』『地の果て 至上の時』と展開して中上世界の最高峰をなす三部作の第一章に当たる。表題作の他、初期の力作「黄金比の朝」「火宅」「浄徳寺ツアー」の三篇を収める。
APPLE BOOKSのレビュー
第74回(1975年下半期)芥川賞受賞作 - 純文学界で不動の地位を保ち、現在も数々の作家たちに影響を与え続けている中上健次の初期短編集「岬」。表題作の芥川賞受賞作「岬」は、海を目の前にしながら漁を生業にできない土地で、苦しい生活を強いられる者たちの物語。閉鎖的な状況の中でもがく人々の苦悩や苛立ちを、"岬"という題材を通じて象徴的かつリアルに描き出している。怒りや恨み、喜びといったむき出しの人間の感情を匂い立つほどの生々しい臨場感で表現する著者の筆致は圧倒的。収録作に共通する、登場人物たちに訪れる不幸と、その時折で見出される微かな希望にすがる人々のあり様は、現代に生きる読者に対しても、重く根底的な人間性のあり方を問う。「岬」は、中上の地元、紀州を舞台にし、後に代表作となる「枯木灘」(芸術選奨新人賞受賞)へと続く、通称「紀州熊野サーガ(物語群)」の第一作。中上健次という作家を知る上で、まずは手に取りたい作品。