苦役列車(新潮文庫)
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3.3 • 14件の評価
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- ¥580
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発行者による作品情報
劣等感とやり場のない怒りを溜め、埠頭の冷凍倉庫で日雇い仕事を続ける北町貫多、19歳。将来への希望もなく、厄介な自意識を抱えて生きる日々を、苦役の従事と見立てた貫多の明日は――。現代文学に私小説が逆襲を遂げた、第144回芥川賞受賞作。後年私小説家となった貫多の、無名作家たる諦観と八方破れの覚悟を描いた「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」を併録。(解説・石原慎太郎)
APPLE BOOKSのレビュー
第144回(2010年下半期)芥川賞受賞作。貧困や劣等感、孤独をテーマに、圧倒的な文章力とユーモアで優れた私小説を書き続けた西村賢太の代表作の一つ。主人公は、父親が性犯罪で逮捕されたことをきっかけに高校に進むことを諦め、日当5,500円の日雇い労働で生計を立てる19歳の北町貫多(きたまち かんた)。生来の素行の悪さに加え、希望の見えない苦役のような労働環境によって性格がさらにひねくれ、恋人はおろか一人の友人すら持たない貫多だったが、同学年の日下部正二(くさかべ しょうじ)との出会いから彼の意識は少しずつ変化していく。重い話になりがちな主題にもかかわらず、救いようのない貫多の行動や発言はもはや痛快で、思わずクスッと笑ってしまうほど。私小説という形式を通じて、人間が持つ本性を赤裸々に表現する著者の真骨頂だ。1987年の日本における貧困層の、息が詰まるような生活をリアリティたっぷりに描く本作は、現代日本が抱えるさまざまな社会問題をまさに予見しているかのようで、時代を経て改めて読む価値のある小説だといえるだろう。表題作の他、小説家となった40代の貫多の姿を描く短編「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」を併録。