夏の約束
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3.8 • 5件の評価
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- ¥620
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発行者による作品情報
ゲイのカップルの会社員マルオと編集者ヒカル。ヒカルと幼なじみの売れない小説家菊江。男から女になったトランスセクシャルな美容師たま代……少しハズれた彼らの日常を温かい視線で描き、芥川賞を受賞した表題作に、交番に婦人警官がいない謎を追う「主婦と交番」を収録した、コミカルで心にしみる作品集。(講談社文庫)
APPLE BOOKSのレビュー
第122回(1999年下半期)芥川賞受賞作。受賞作なしだった第121回芥川賞で『恋の休日』が初の候補作になった藤野千夜(ふじのちや)。2回目の候補で受賞した『夏の約束』と、性的マイノリティである藤野の存在は、LGBTQ+への差別が強かった1999年の日本ではちょっとした驚きとなった。ゲイカップルの何も起きない日常風景をのほほんとスケッチする内容に、激しい拒否感を表明する選考委員がいたほどだった。マルオは一般企業の会社員で、ヒカルはフリーランスの編集者。自立した生活を楽しく過ごす2人の言葉には強い怒りも嘆きもない。夏のキャンプに誘う友達も、誰に迷惑をかけるでもなく生きているが、彼らには時折、差別の視線と言葉が飛んでくる。さりげなくかわして、いちいち反応しないし、なんならシニカルな笑いに変えていく。社会からはじかれた少数派が、幸せな日常を守りながら生きるための処世術にハッとさせられる。最後の1行まで軽く明るさを貫くことで、生きにくさと、つらさをにじみ出させる巧みな文体に、ぜひ触れてほしい。