汽笛の聞こえる夜に
もう一度、歩き出すために
発行者による作品情報
失恋の夜、主人公はふと足を踏み入れた霧の中で、「空の駅」と名付けられた不思議なホームに辿り着く。そこは、現実と夢のあいだにあるような場所。人生のどこかで何かを失った人々が静かに佇み、過去と未来のはざまで佇む“停車場”だった。
現実の痛みから逃れるように、主人公は夜ごとその駅を訪れるようになる。そこでは、優しくも謎めいた老婦人と、自信を喪い引きこもってしまった青年が、それぞれの思いを抱えたまま時間を過ごしている。やがて列車が現れるたびに、人々は少しずつ「乗るか、残るか」の選択を迫られていく。
繰り返す夢のなかで、主人公は癒され、現実の中でも少しずつ変化を見せ始める。元恋人との記憶に別れを告げ、職場での失敗にも向き合いながら、心の芯に小さな強さを宿していく。そして、最後に再びあの駅に立ったとき、自らの意志で列車に乗る決断を下す。
――それは、ただ癒されるだけではなく、「もう一度、歩き出す」ための選択だった。
“空の駅”は、誰の心にもひっそりと存在する場所。過去を手放せずにいる誰かにとっての、小さな光となる物語。