火喰鳥を、喰う
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3.9 • 47件の評価
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- ¥880
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発行者による作品情報
全ては「死者の日記」から始まった。これは“怪異”か、或いは“事件”か。
選考委員、激賞!令和初の大賞受賞作!
「恐怖と謎がしっかりと絡んでいる。ミステリ&ホラー大賞にふさわしい」――有栖川有栖氏
「謎への引きこみ方が見事。読了後は心地よい酩酊感に襲われました」――辻村深月氏
信州で暮らす久喜雄司に起きた二つの出来事。ひとつは久喜家代々の墓石が、何者かによって破壊されたこと。もうひとつは、死者の日記が届いたことだった。久喜家に届けられた日記は、太平洋戦争末期に戦死した雄司の大伯父・久喜貞市の遺品で、そこには異様なほどの生への執着が記されていた。そして日記が届いた日を境に、久喜家の周辺では不可解な出来事が起こり始める。貞市と共に従軍し戦後復員した藤村の家の消失、日記を発見した新聞記者の狂乱、雄司の祖父・保の失踪。さらに日記には、誰も書いた覚えのない文章が出現していた。「ヒクイドリヲクウ ビミナリ」雄司は妻の夕里子とともに超常現象に造詣のある北斗総一郎に頼ることにするが……。 ミステリ&ホラーが見事に融合した新鋭、衝撃のデビュー作。
APPLE BOOKSのレビュー
抜群のリーダビリティで読者を引っ張る新鋭作家のデビュー作は、恐怖と謎が拮抗(きっこう)し、現実世界が崩壊していくモダンホラー。信州で妻の夕里子と暮らす久喜雄司の周りで不可解な出来事が起こる。太平洋戦争末期にニューギニア島で戦死し、久喜家の墓に刻まれた大伯父、貞市の名前が何者かによって削られ、時を同じくして貞市が手帳に遺した日記が届いたのだ。日記には、戦況が悪化して飢えに苦しむ中、現地に生息する走鳥類の火喰鳥(ヒクイドリ)を食べ、生き延びることへの執着が記されていた。その日を境に加速する怪異現象。日記を持ち込んだ記者は半狂乱となり、祖父、保が失踪。そして日記には「ヒクイドリヲ クウ ビミナリ」の文字が出現する。夕里子の大学時代の同窓生で、オカルト現象に詳しい北斗総一郎は、この日記に強い思いの「籠り」があるというのだが…。次々と起きる怪異の描写が読者の不安を誘い、次に何が起こり、恐怖の正体は何なのかと、強烈なサスペンスを生み出していく。火喰鳥は南方戦線の禁断の行為を示唆するが、まるでデイヴィッド・リンチの映画のように悪夢と現実が侵食し合う、混沌とした世界観もすさまじい。結末を知ると、ルビンの壺のように巧みに描かれていた夢のパートにも驚嘆。