



百年泥(新潮文庫)
-
-
4.0 • 5件の評価
-
-
- ¥540
-
- ¥540
発行者による作品情報
豪雨が続いて百年に一度の洪水がもたらしたものは、圧倒的な“泥”だった。南インド、チェンナイで若い IT 技術者達に日本語を教える「私」は、川の向こうの会社を目指し、見物人をかきわけ、橋を渡り始める。百年の泥はありとあらゆるものを呑み込んでいた。ウイスキーボトル、人魚のミイラ、大阪万博記念コイン、そして哀しみさえも……。新潮新人賞、芥川賞の二冠に輝いた話題沸騰の問題作。(解説・末木文美士)
APPLE BOOKSのレビュー
第158回(2017年下半期)芥川賞受賞作。借金返済のためにインドのチェンナイで日本語教師をする「私」が、100年に1度の洪水に遭遇したことで目にした摩訶不思議な現象を描く。大洪水は1世紀にわたってあらゆるものをのみ込んだ川の泥をかき混ぜ、幻惑的な光景をもたらした。夢と現実の境は溶け合い、死者はよみがえり、そこに暮らす人々はすべてをあるがままに受け入れて生活を続ける。そのカオスな環境で「私」も自身の過去と現在を脈絡なく行き来しながら、大きな流れに身を委ねるようにして生きる。インド哲学、仏教学を学んだ著者が、インド特有の精神性を小説に落とし込んだ異色作。いくつものエピソードをコラージュしたような構成で、大らかな語りぶりによって自然と奇妙な世界に引き込んでいく。執筆当時は実際にチェンナイで日本語教師をしていた著者だからこそのリアルな描写と、そこに紛れ込む架空の話が混然一体となって紡がれ、心をどこかかなたへと連れ出してくれる。