首里の馬(新潮文庫)
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発行者による作品情報
問読者(トイヨミ)――それが未名子の仕事だ。沖縄の古びた郷土資料館で資料整理を手伝う傍ら、世界の果ての孤独な業務従事者に向けてオンラインで問題を読み上げる。未名子は、この仕事が好きだった。台風の夜に、迷い込んだ宮古馬(ナークー)。ひとりきりの宇宙ステーション、極地の深海、紛争地のシェルター……孤独な人々の記憶と、この島の記録が、クイズを通してつながってゆく。第163回芥川賞受賞作。(解説・大森望)
APPLE BOOKSのレビュー
第163回(2020年上半期)芥川賞受賞作。2018年の『居た場所』、2019年の『カム・ギャザー・ラウンド・ピープル』でも同賞候補に選ばれた作者は、顧みられない事物の重層性をSF的な奇想で見事に描いた。小さな郷土資料館、リモートで出題するクイズ、幻の宮古馬という三つの謎めいたモチーフから魔法のように紡ぎ出された物語は、はかなくも壮大で美しい。舞台は沖縄。一人暮らしの未名子は、郷土史研究家の女性が開いた私設資料館の資料整理を無償で手伝う一方、怪しいマンションの一室で古ぼけたパソコンと向き合い、日本語を母語としない人々に一対一でクイズを出すという奇妙な仕事をしている。台風が過ぎた後、資料館が閉鎖されると知った未名子はある決意をし、庭に迷い込んだ沖縄在来の宮古馬の背に乗って、この島のすべてを記録する…。「全焼した首里城を多くの人から集めた写真で復元する」というニュースを見て着想した物語は、記録を残すことの重要性を示し、知識の集積であると同時にへき地にいる孤独な者たちのつながりにもなるクイズと結び付く。小川 哲の『君のクイズ』と並ぶクイズ小説であり、宮古馬に象徴される失われたものへの思いが心に響く。