ニムロッド
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4.2 • 12件の評価
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- ¥660
発行者による作品情報
仮想通貨をネット空間で「採掘」する僕・中本哲史。
中絶と離婚のトラウマを抱えた外資系証券会社勤務の恋人・田久保紀子。
小説家への夢に挫折した同僚・ニムロッドこと荷室仁。……
やがて僕たちは、個であることをやめ、全能になって世界に溶ける。「すべては取り換え可能であった」という答えを残して。 ……
「すごく好きです。胸がつまって泣きそうになりました。」――島本理生さん
(TBS系毎週土曜日あさ9:30~放送中「王様のブランチ」より )
【芥川賞選考委員絶賛、選評より】
「地上から塔の頂上へと、軽々と読者を運んでいく垂直の跳躍力こそがこの作家最大の魅力である。」――吉田修一さん
「ここには小説のおもしろさすべてが詰っている。」――山田詠美さん
APPLE BOOKSのレビュー
第160回(2018年下半期)芥川賞受賞作。ビットコインをネット空間で「採掘」する「僕」、中本哲史。外資系証券会社勤務の恋人、田久保紀子。中本の会社の先輩で、小説家を目指して挫折したニムロッドこと荷室仁。この3人の登場人物からなる、シンプルにして重層的な構造を持った、神話的ともディストピア的ともいえる物語。デビュー作『太陽』にも通じるSFと純文学の掛け合わせという色合いを残しながら、より現代社会へと肉迫し、科学の先にある人間の在り方を問いかける。良くも悪くも際立った個が存在しない、限りなく均質的な世界へと向かう現代において、幸せの定義もまた変容せざるを得ない。そして、これまではモチベーションになり得た仕事も恋愛も貨幣も意味を持たなくなる世界がやって来たとき、人間は何のために生きていくのか、そもそも人間は人間たりえるのか。ビットコインが示唆的なモチーフとして登場するが、実態がないという意味では仮想通貨もこの社会も変わりがなく、あるのは対象を信頼し、その価値を信じて関わるかどうかだろう。この小説は、個として生きるための希望を見いだす物語でもある。