しんせかい(新潮文庫)
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- ¥380
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発行者による作品情報
十九歳のスミトは、船に乗って北へ向かう。行き着いた【谷】で待ち受けていたのは、俳優や脚本家を志望する若者たちと、自給自足の共同生活だった。過酷な肉体労働、同期との交流、【先生】の演劇指導、地元に残してきた“恋人未満”の存在。スミトの心は日々、揺れ動かされる。著者の原点となる記憶をたぐり、等身大の青春を綴った芥川賞受賞作のほか、入塾試験前夜の希望と不安を写した短編も収録。(解説・朝吹真理子)
APPLE BOOKSのレビュー
第156回(2016年下半期)芥川賞受賞作。劇作家、演出家、俳優でもある著者の原点となる経験をベースにした私小説的作品。とある入塾試験に合格した19歳のスミトが、船で向かった【谷】。そこでは俳優や脚本家を志望する人々が【先生】による指導の下で共同生活を送り、厳しい自然の中で肉体労働に励みながら演劇表現を学んでいた。一人称の語り手であるスミトが怒濤(どとう)の日々をつづるが、当の本人は自分の置かれた状況をあまり把握していないようであり、驚くような出来事が次々と起こっては、整理がつかないままどんどん季節が流れていく。それを主観目線で断片的に描くことにより、スミトが飛び込んだ世界と、そこに集う一癖も二癖もある登場人物たちの様子をダイレクトに伝える。スミトはさまざまな出来事に心を揺さぶられつつも、どこかあっさりと受け入れ、ひたすら体を動かし続ける。そんな彼の思考をそのまま写し取ったような文章は独特のリズムがあり、読者は一風変わった【谷】の生活を追体験できる。入塾試験前夜の出来事を描く短編も併せて収録。