緋(あか)い記憶
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- ¥580
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発行者による作品情報
生まれ故郷の古い住宅地図には、あの少女の家だけが、なぜか記されていなかった。あの家が怖くて、ずっと帰らなかったのに。同窓会を口実に、ひさしぶりに故郷を訪ねた主人公の隠された過去、そして彼の瞼の裏側に広がる鮮やかな“緋色のイメージ”とは、一体何なのか……。直木賞受賞の傑作ホラー。表題作ほか、選考委員の激賞を受けた「ねじれた記憶」など、粒よりの七篇を収録。痺れるように怖いのに、とてつもなく懐かしい――高橋克彦ならではの独自の世界を満喫できます。
APPLE BOOKSのレビュー
第106回(1991年下半期)直木賞受賞作。1983年に江戸川乱歩賞を受賞してデビューし、ミステリーはもとより歴史物やホラーなど幅広いジャンルで活躍する高橋克彦の短編集。あとがきで「記憶というものの不思議さに関心を抱いて、ぽつりぽつりと書き溜めたもの」と述べるように、記憶をテーマにした7編を収録。友人が手に入れた故郷の古い住宅地図、そこには思い出の少女の家だけが載っていなかった。同窓会のために帰郷した男がその家を探すと、信じがたい事実を知ることになる「緋い記憶」。かつて暮らした町で幼なじみたちと缶蹴りに興じたある一日の思い出を語り合う。ところが、それぞれの記憶には少しずつ齟齬(そご)があり、やがて封印したはずの記憶が呼び起こされる「言えない記憶」。原因不明の食あたりに悩まされる男は、郷里の天然水に疑いの目を向ける。その水が湧く鍾乳洞を訪れると、母がかたくなに語るのを拒む過去、そして悲しい家族の歴史が明らかになる「膚の記憶」。舞台となるのは著者の故郷、岩手をはじめとする東北地方。記憶の深淵をのぞき込んだ主人公が忘れていたはずの恐ろしい真実を突きつけられる。人の記憶の曖昧さがいざなう不条理な世界。ゾクッとする恐怖が味わえる一方、どこか切ない印象が心に残る。