黒革の手帖(上)
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3.5 • 32件の評価
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- ¥850
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発行者による作品情報
7500万円の横領金を資本に、銀座のママに転身したベテラン女子行員、原口元子。店のホステス波子のパトロンである産婦人科病院長楢林に目をつけた元子は、元愛人の婦長を抱きこんで隠し預金を調べあげ、5000万円を出させるのに成功する。次に彼女は、医大専門予備校の理事長橋田を利用するため、その誘いに応じるが……。夜の紳士たちを獲物に、彼女の欲望はさらにひろがってゆく。
APPLE BOOKSのレビュー
社会派推理小説の大御所であり、ベストセラーも多い松本清張の「黒革の手帖(上)」。主人公の原口元子は元銀行員。数年に渡って横領した金銭を元手に銀座で店を構えてママとなり、銀行員時代に手帖に記した情報をもとに次々と大金を手にしていく。地味で堅実な会社員であった元子が横領を働いた理由やそのからくり、銀座の店の常連客が大金を手にする方法は、小説が書かれた1980年前後の社会背景を反映している。しかし、何度もドラマ化されていることからもわかるように、いつの時代も変わらない人間の欲望が色濃く描かれており、決して色褪せない一作となっている。その普遍性を捉える力は著者の真骨頂の一つといえる。人の表情を読み、人間関係を利用しながら情報を集め、相手に合わせて即座に言を左右する元子のしたたかな悪女ぶりは、ピカレスク小説に長けた作者ならではの魅力に満ちている。欲望が渦巻く夜の町を舞台に、病院長や予備校の理事長など、地位や権力を持った男たちに臆さず立ち向かっていく姿には小気味良さもある。大きな仕掛けがどのように決着するのか、続きが気になる上巻。