嫉妬/事件
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3.5 • 2件の評価
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- ¥1,100
発行者による作品情報
2022年、ノーベル文学賞受賞! 別れた男が他の女と暮らすと知り、私はそのことしか考えられなくなる。どこに住むどんな女なのか、あらゆる手段を使って狂ったように特定しようとしたが──。妄執に取り憑かれた自己を冷徹に描く「嫉妬」。1963年、中絶が違法だった時代のフランスで、妊娠してしまったものの、赤ん坊を堕ろして学業を続けたい大学生の苦悩と葛藤、闇で行われていた危険な堕胎の実態を克明に描き、オードレイ・ディヴァン監督により映画化され、ヴェネチア国際映画祭でも金獅子賞を受賞した「あのこと」の原作の「事件」の傑作二篇を収録。巻末には、獨協大学名誉教授の井上たか子氏による「事件」の解説も合わせて収録。
APPLE BOOKSのレビュー
2022年にノーベル文学賞を受賞したフランスの作家アニー エルノー。その作品の多くが自伝的であり、オートフィクションの優れた語り手として知られるエルノーだが、2編の物語を収録した本作もまた例外ではない。別れた恋人が別の女性と暮らしていると知り、嫉妬と妄執に駆られながら何としても相手の女性の素性を知ろうとするさまを淡々と描写した「嫉妬」。中絶が違法だった1960年代のフランスを舞台に、望まぬ妊娠の末に堕胎を選ぶべきか苦悩する大学生を描いた「事件」。そのいずれもがエルノー自身の経験を反映した物語であると考えられている。しかし、エルノーのストーリーテリングは徹底して平熱で、そこには自己憐憫(れんびん)のかけらも存在しない。自伝的でありながら、当事者としての感情に左右されない孤高の物語。それがエルノーの文学の醍醐味(だいごみ)だ。自分の弱さを、世間の無常を、あくまで冷徹な観察者のまなざしで描き出していく彼女の作品には、作家として生きるすごみが宿っている。「事件」は2021年に『あのこと』と題して映画化され、第78回べネチア国際映画祭で最高賞に該当する金獅子賞を受賞した。