センセイの鞄
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- ¥1,300
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発行者による作品情報
「センセイ」は私の高校時代の古文の先生。十数年ぶりに再会したセンセイと私の、セツセツとした淡き恋の行方は? 人気女流作家のオカシくて、哀しい最新長編恋愛小説。
APPLE BOOKSのレビュー
年の差を超えたラブストーリーを繊細かつたおやかなタッチで描き、高い評価を得た芥川賞作家、川上弘美の代表作。ツキコさんはある日、高校時代の恩師である“センセイ”と再会。30歳以上年の離れたセンセイに淡い恋心を募らせるツキコさんとセンセイは、行きつけの居酒屋で少しずつ距離を縮めていく。2人の間を流れる時間はゆったりとしていて、交わす言葉もどこか抽象的だ。恋愛が確かな輪郭を持つことを躊躇(ためら)うような淡い感情の描写は、まるでファンタジーを読んでいるような錯覚を読者にもたらす。一方、2人が楽しむ居酒屋でのメニューの数々や、ふとした情景の描写はどこまでもリアル。日常に幻想を滑り込ませる川上の作風は、本作でも遺憾無く発揮されているといえるだろう。ツキコさんの大人の独身女性としての自制と葛藤も、センセイの老いへの自覚と諦念も、どちらも理解できるからこそ2人のラブストーリーはもどかしく、そして切ない。耐え難い喪失感と、満ち足りた気持ちが交錯する結末も不思議だ。センセイの鞄(かばん)の中の空っぽの、何もない空間。これからそこに、ツキコさんはどんな思いを詰めていくのだろう。