きことわ(新潮文庫)
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- ¥410
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発行者による作品情報
貴子(きこ)と永遠子(とわこ)。葉山の別荘で、同じ時間を過ごしたふたりの少女。最後に会ったのは、夏だった。25年後、別荘の解体をきっかけに、ふたりは再会する。ときにかみ合い、ときに食い違う、思い出。縺れる記憶、混ざる時間、交錯する夢と現。そうして境は消え、果てに言葉が解けだす――。やわらかな文章で紡がれる、曖昧で、しかし強かな世界のかたち。小説の愉悦に満ちた、芥川賞受賞作。
APPLE BOOKSのレビュー
第144回(2010年下半期)芥川賞受賞作。貴子(きこ)と永遠子(とわこ)、2人の女性の時間と記憶と夢、過去と未来と現在が幾重にも重なり、溶け合っていく。子どもの頃、葉山の別荘で共に夏を過ごした貴子と永遠子。別荘主の娘の貴子は毎年、母の春子と叔父の和雄と3人で訪れ、永遠子もまた管理人を務める母の淑子に連れられて別荘に来ていた。7歳差の2人は姉妹とも同性愛ともつかぬ、存在が絡まり合った共同体のように密接な関係を築くが、貴子は母を亡くした8歳を境に別荘を訪れなくなり、2人の蜜月関係は消える。別荘の取り壊しが決まり、整理に赴いた2人が25年ぶりに再会すると、再び時間が動き出す…。永遠子が見る夢で始まり、夢を見ない貴子が初めて夢を見て閉じる物語は、死者と生者が入り交じり、場所や家が移り変わり、過去の自分と未来の自分が見つめ合う。髪の毛や影が互い違いに絡まり、どちらか分からなくなっていく感覚や、雪の結晶や薄荷の匂い、マニュエル・ゲッチングのミニマルミュージックなど、繰り返されるイメージの連鎖が、瞬間と永遠の迷宮にいざなう。つかみどころのない時間と官能を、際立つ才能で描いた傑作。