ダイヤモンドダスト
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4.2 • 9件の評価
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- ¥500
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発行者による作品情報
火の山を望む高原の病院。そこで看護士の和夫は、様々な過去を背負う人々の死に立ち会ってゆく。病癒えず逝く者と見送る者、双方がほほえみの陰に最期の思いの丈を交わすとき、時間は結晶し、キラキラと輝き出す……。絶賛された第100回芥川賞受賞作「ダイヤモンドダスト」の他、理想の医療に挫折し、タイ・カンボジア難民キャンプ地での特異な体験に活路をもとめる医師と末期癌の患者として彼の前に現れたかつての恋人との日々を描いた「冬への順応」など短篇四本を収録する。
APPLE BOOKSのレビュー
第100回(1988年下半期)芥川賞受賞作。信州の総合病院で臨床医として働きながら、命にまつわる物語を紡ぐ南木佳士の作品。町立病院に勤める30過ぎの看護師、和夫の視点から、それぞれの人生を経て最期を迎えようとする人々の姿を描く。妻を亡くし、病院でも多くの人の死を見届けてきた和夫は、その目にかすかな諦めの色を映している。人の生死も、別荘地として急速に開けた故郷も、この土地に来る人も去る人も、すべてはなすすべもなく移り変わる。その流れの中で、老いて記憶も曖昧になった和夫の父が、いてつく冬の庭でにわかに作り出した水車は、詩的なシグナルとなって心に刻まれる。表題作の他、カンボジア難民医療活動という著者自身の経験が色濃く反映された「冬への順応」など、作家の実感のこもった3編を収録。情感を抑えた筆致から、生と死を見つめてきた作者の思いがひしひしと伝わってくる。