星々の悲しみ
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4.0 • 6件の評価
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- ¥540
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発行者による作品情報
喫茶店に掛けてあった絵を盗み出す予備校生たち、アルバイトで西瓜を売る高校生、蝶の標本をコレクションする散髪屋──。若さ故の熱気と闇に突き動かされながら、生きることの理由を求め続ける青年たち。永遠に変らぬ青春の美しさ、悲しさ、残酷さを、みごとな物語と透徹したまなざしで描く傑作短篇集。
APPLE BOOKSのレビュー
日本文学界の巨匠、宮本輝の切なくも鮮烈な青春の群像劇。予備校をさぼって繰り広げるささやかな冒険譚の表題作から、病に侵され、死を身近に感じる入院生活の日々をつづった「北病棟」、西瓜を売り歩いた遠い日のアルバイトの記憶をたどる「西瓜トラック」、家族を捨てて愛人の元に走った父への思い「小旗」など、悩み、迷いながらも思春期を生きる若者たちの二度とない季節を描いた本作は、少年期から青年期にかけての宮本自身を投影した短編集でもある。例えば「星々の悲しみ」の主人公。将来への不安から逃れるように小説をむさぼり読む浪人生の志水は、まさに一浪して文学部に進学した宮本その人だ。彼らが著者の分身であるからこそ、本作の主人公の若者たちに宮本が向けるまなざしには、ノスタルジーに満ちた温かな瞬間もあれば、「あの時こうすればよかった」という一片の後悔に胸がうずくような瞬間もある。読後感は時に甘酸っぱく、そして時にほろ苦い。『青が散る』と並ぶ宮本の青春小説の傑作であり、1981年の初版刊行から途切れなく版を重ねて今なお読み継がれている。