合理的にあり得ない 上水流涼子の解‪明‬

APPLE BOOKSのレビュー

知的かつハードボイルドな作風で人気の柚月裕子による、表題作をはじめとする5編オムニバス形式の軽快なミステリー「合理的にあり得ない 上水流涼子の解明」。主人公の上水流涼子は元弁護士で、公にはできないもめごとを解決するなんでも屋。日本人形のような顔立ちとストレートの黒髪が印象的な30代独身の涼子と、IQ140ならではの明晰な考察力と幅広い知識を駆使して助手を務める貴山伸彦という、魅力的なキャラクター設定で読み手を引きつける。2人は建設会社の2代目を弄する詐欺師の "確率的にあり得ない" 手口を逆手に取るなど、"あり得ない" が絡む依頼を次々に解決。アイデアにあふれ、時に法も恐れない、彼らの大胆かつ爽快な活躍に胸がすく。不動産詐欺や野球賭博などに関する事件が描かれ、現実の裏側でも同じようなことが起こっているのではと思わせる書きぶりは秀逸。物語が進むにつれ、涼子が弁護士会から追われた理由や、東大卒の貴山が助手についている理由などが明らかになる。彼らの内面に踏み込んでいく演出も楽しめるエンターテインメント小説。