ヨルガオ殺人事件 ‪上‬

APPLE BOOKSのレビュー

名探偵アティカス・ピュントと編集者スーザン・ライランドが帰ってきた。作中作とその外側の事件を超絶技巧で描く二重のフーダニットが高く評価された『カササギ殺人事件』の続編。丸々一本の作中作を挿入する大胆な趣向は同じで、一つの作品で長編2作分を堪能できるぜいたくなミステリーである。前作から2年、編集者を辞めてクレタ島でホテルを営むスーザンを訪ねてきたのは、英国の裕福な夫婦だった。8年前に殺人が起きたホテルを経営する彼らだが、ある本を読んで事件の真相に気付いた娘のセシリーが失踪したと言うのだ。その本とは、かつてスーザンが担当した名探偵アティカス・ピュントが登場するシリーズ第3作『愚行の代償』。有名女優が殺されるミステリー小説に隠された秘密とは一体何なのか。前作同様、英国における古典探偵小説の技法を凝縮し、アガサ・クリスティにも負けない作中作を仕立てただけでも驚きだが、縦横無尽に張り巡らされた伏線、ミステリーへの愛を強く感じさせる数々のオマージュ、アナグラムによるヒントが混然一体となり、前作以上に作中作の外側の事件と強固に結び付いている。黄金時代と現代のハイブリッドが秀逸なミステリーの傑作。