季節風 春
-
-
4.7 • 7件の評価
-
-
- ¥600
発行者による作品情報
古いひな人形が、記憶の中の春とともに、母の面影を思い起こさせる「めぐりびな」、子どもが生まれたばかりの共働きの若い夫婦が直面した葛藤と、その後の日々を鮮やかに描き出した「ツバメ記念日」など、美しい四季と移りゆくひとの心をテーマにした短篇集「季節風」シリーズの春篇。別れと出会いに胸震わせる、春の物語12篇を収録。
APPLE BOOKSのレビュー
重松清の「季節風 春」。人の心の機微を温かく描き出すことで定評のある著者が、別れや始まりの季節でもある春をテーマにした12編の短編小説集。物語の主人公は育児休暇中の主婦や大学進学のために上京する少年、不動産会社の営業課長など、年齢も社会的な立場もさまざまだが、いずれもどこにでもいそうな市井の人々。彼らが親や兄弟姉妹などとの関わりの中、ちょっとした非日常の出来事を通じて、思い悩んだり考えたりするさまを穏やかな筆致で綴っている。誰でも12人の主人公やその周囲の人に自分を重ねて読むことができるほど身近な物語なのに、決して平凡にならない巧みな構成が魅力。また、全編を通じて軽快な表現ながら、一気に畳み掛けるように登場人物の想いがほとばしる場面展開も読み応えがある。ふとした言葉に心を思わず揺り動かされ、読後にぽかぽかしたぬくもりが残る一冊。