後巷説百物語
-
-
4.4 • 20件の評価
-
-
- ¥1,000
-
- ¥1,000
発行者による作品情報
文明開化の音がする明治十年。一等巡査の矢作らは、ある伝説の真偽を確かめるべく隠居老人・一白翁を訪ねた。翁は静かに、今は亡き者どもの話を語り始める。第130回直木賞受賞作。妖怪時代小説の金字塔!
APPLE BOOKSのレビュー
第130回(2003年下半期)直木賞受賞作。江戸時代を舞台とした「巷説百物語」「続巷説百物語」から、舞台は明治へと移る。御行の又市、山猫廻しのおぎんといった個性的なキャラクターが再び登場するが、本作では戯作者志望だった山岡百介の昔語りを通して現れる。物語の骨子はいずれも同じだ。妖怪絡みの怪事件を解決しようと、東京警視庁一等巡査の矢作剣之進が仲間たちと共に薬研堀の一白翁の元を訪れ、事件解決の手掛かりとなる奇妙な体験談を聞くという、岡本綺堂の『半七捕物帳』をほうふつさせる構造だ。収録された6編はいずれも妖怪を題材にしながら妖魔は登場せず、隠された事件の真相と、人間の心の闇に迫ったおどろおどろしい物語が紡がれる。収録作品はいずれも味わい深いが、直木賞選考委員の多くが激賞したのが「赤えいの魚」。体長3里(約12キロメートル)を上回るという、島と見紛うほどに大きな妖怪に擬して、戎島という孤島で起こった事件の一部始終を鬼気迫る筆致で描く。そして最後を飾る、シリーズファン必読の傑作「風の神」。世に不思議なし、世、凡て不思議なり――のはずなのだが、本を閉じた後、読者は確かに、りんという音を聞くのである。