文庫 死にたい夜にかぎって
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- ¥710
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発行者による作品情報
ドラマ化決定の話題作がついに文庫化。
愛が欲しくて愛に振り回された男の実話小説。
忘れたくない失恋(かこ)がある。
「君の笑った顔、虫の裏側に似てるよね。カナブンとかの裏側みたい」――
憧れのクラスメイトに指摘された少年は、その日を境にうまく笑えなくなった。
“悲劇のようで喜劇な人生”を切なくもユーモア溢れる筆致で綴る作家・爪切男のデビュー作。
出会い系サイトに生きる車椅子の女、カルト宗教を信仰する女、新宿で唾を売る女etc.
幼くして母に捨てられた少年は、さまざまな女性たちとの出会いを通じ、少しずつ笑顔を取り戻 していく。
文庫には、アイナ・ジ・エンド(BiSH)による解説「死にたい夜を超えていく」を特別収録。 ドラマは2020年初春に放送予定。
<本文より>
私の笑顔は虫の裏側に似ている。
学校で一番可愛い女の子が言っていたのだから間違いない。
生まれてすぐに母親に捨てられ、母乳の出ない祖母のおっぱいを吸って育った。
初恋の女の子は自転車泥棒で、初体験の相手は車椅子の女性だった。
初めて出来た彼女は変な宗教を信仰しているヤリマンで、とにかくエロかった。
そして今、震度四強で揺れる大地の上で人生最愛の女にフラれている最中だ。
部屋の窓から鋭角に差し込む朝の光を浴びた彼女が、ヤジロベエのようにゆらゆらと揺れている 。
APPLE BOOKSのレビュー
切なくて情けなくて、それでいて純粋な、男のどうしようもなさにあふれた私小説。文学同人誌の異端児として注目を集めた著者の本格デビュー作で、ウェブサイトの連載エッセイの中から恋愛エピソードを中心に抜粋。文体は軽いが内容は赤裸々、しっかりとしたプロットで物語に引き込む筆力がさえわたる。初恋の相手と一緒に自分の自転車を盗んだ中学時代。学園のマドンナに毎日屋上でビンタされた高校時代、決してロマンチックではなく、むしろ恋愛と呼ぶことさえ微妙な青春の日々。とりわけ、新宿で唾を売って生計を立てるアスカとの6年間の同棲生活と別れは、生々しくもユーモアにあふれている。著者の家庭環境や登場する女性たちは、決して特殊な存在ではない。多くの人は、見えないふりをしているか記憶から消し去っているだけ。著者はそんな読者の記憶を呼び覚まし、深い共感を与えてくれる。