暇と退屈の倫理学(新潮文庫)
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- ¥880
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発行者による作品情報
「暇」とは何か。人間はいつから「退屈」しているのだろうか。答えに辿り着けない人生の問いと対峙するとき、哲学は大きな助けとなる。著者の導きでスピノザ、ルソー、ニーチェ、ハイデッガーなど先人たちの叡智を読み解けば、知の樹海で思索する喜びを発見するだろう――現代の消費社会において気晴らしと退屈が抱える問題点を鋭く指摘したベストセラー、あとがきを加えて待望の文庫化。
APPLE BOOKSのレビュー
暇はないが退屈だという状態に陥っている現代人に、暇とは何か、退屈はどのようにして起こるのかを哲学の見地から問いかけるベストセラー。何もする必要のない“暇”と、何かをしたいのにできない“退屈”。似ているようで違う両者の関係性について考えを巡らせる著者は、人類の歴史をひもとき、遊動生活から定住生活に移行する過程で、移動のたびに新しい環境に適応することや、狩りで発揮された探索能力が不要になり、持て余した能力が文明の発展とともに退屈を生んだ、と説く。限りある“浪費”と際限ない“消費”の違いや消費社会における退屈と現代の疎外を、デヴィッド・フィンチャー監督による映画『ファイト・クラブ』を通して説明する一方で、パスカル、ルソー、ニーチェらの哲学者の叡智を読み解きながら論を進める。中でもハイデッガーの退屈論に関する論考は鋭い。退屈を三つの形式に分類したハイデッガーの理論を称賛しつつ、その問題点を指摘し、生物の“環世界”という概念を導入して、人間が他の動物より退屈しやすい理由を考察する思索の過程は、本書の真骨頂。退屈をテーマに、平易な文章で思考する楽しみを得られる。