



暗殺の年輪
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3.8 • 15件の評価
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- ¥620
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発行者による作品情報
海坂(うなさか)藩士・葛西馨之介(けいのすけ)は成長するにつれ、周囲が向ける愍笑(びんしょう)の眼を感じるようになった。どうやら、18年前の父の横死と関係があるらしい。仲間から孤立する馨之介が、久しぶりに同門の貝沼金吾に誘われて屋敷へ行くと、待っていた藩の重役から、中老暗殺を引き受けろと言われ──武士の非情な掟の世界を、緻密な構成で描いた直木賞受賞作と、「黒い繩」「ただ一撃」「溟(くら)い海」「囮」の全5作品を収録した、初期傑作集。
APPLE BOOKSのレビュー
第69回(1973年上半期)直木賞受賞作。『たそがれ清兵衛』『蝉しぐれ』など、数々の名作を残し、映画、ドラマ化した作品も数えきれない、時代小説の巨匠による原点とも呼べる初期短編集。抑圧された階級社会の中で、懸命に生きる町人や下級武士、女性たちを、哀愁に満ちた筆致で淡々と描くスタイルが、後の作品にも通じていることが感じられる。受賞作となった「暗殺の年輪」は、親子2代にわたって刺客に仕立て上げられる武士の悲哀が切ない。父も自分も、そして母さえも、上級武士から使い捨ての駒として扱われる理不尽さ。そんな状況の中でも心を寄せてくれる同輩の妹や、心配してくれる酒店の主とその娘。登場人物それぞれの個性が詳細に表現され、短い作品ながら長編でも読み終えたかのような読後感がある。何度でも読み返したくなる味わい深さもあり、読むほどに登場人物の背景、心情に新たな発見がある。その他の収録作品も直木賞候補作という傑作ぞろいで、それぞれの立場で江戸時代を生きる人々の姿がやるせない。