正妻 慶喜と美賀子(上)
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3.6 • 7件の評価
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- ¥750
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発行者による作品情報
幕府と朝廷の関係にも動乱の機運が高まる十五代家慶の治世。一条家の美しき姫美賀子は、英邁の噂轟く一橋慶喜に嫁いだ。「わしはどんなことがあっても将軍になどならぬ」信念を曲げない夫の奇矯な振る舞いに翻弄される美賀子は、ある哀しい決意を抱く。幕末の新たな一面を描ききる、傑作大河小説を文庫化!
APPLE BOOKSのレビュー
江戸幕府最後の将軍、徳川慶喜の正室となった美賀子の目を通し、幕末から明治までの動乱期を描いた歴史大河。公家の今出川家の娘として、京でのどかに育てられてきた延が、ある日突然一条家の姫として慶喜の妻になる。京言葉でのんびりとした雰囲気を漂わせ、武家の文化や暮らしぶりに戸惑う姿はコミカルだが、決して円満とはいえない夫婦関係、我が子への執着、側室への嫉妬などが描かれ、徐々に情念渦巻く愛憎劇に発展。中でも、慶喜の愛人である町娘出身の側室お芳の視点との対比が興味深い。正室と側室、公家と庶民という異なる立場から見た慶喜の描写が、歴史的評価とは違った新たな慶喜像を浮かび上がらせる。幕末の幕府における女性といえば、13代家定の正室となった天璋院篤姫や、14代家茂の正室となった皇女和宮が有名。しかし、15代将軍の正室として幕府の崩壊を経験し、明治まで生きた美賀子もまた、数奇な運命をたどっている。著者ならではの視点と細やかな描写により、歴史に埋もれたヒロインが掘り起こされ、見事に再生されている。