深夜特急1―香港・マカオ―(新潮文庫)【増補新版】
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発行者による作品情報
インドのデリーからイギリスのロンドンまで、乗合いバスで行ってみたい――。ある日そう思い立った26歳の〈私〉は、仕事をすべて投げ出して旅に出た。途中立ち寄った香港では、街の熱気に酔い痴れて、思わぬ長居をしてしまう。マカオでは、「大小(タイスウ)」というサイコロ博奕に魅せられ、あわや……。一年以上にわたるユーラシア放浪の旅が今、幕を開けた。いざ、遠路二万キロ彼方のロンドンへ! 山口文憲氏との対談「出発の年齢」を収録。「あの旅をめぐるエッセイI 孤寒」が新たに追加された【増補新版】。※本電子書籍は、令和二年七月発行の新潮文庫(新版)を底本としています。
APPLE BOOKSのレビュー
旅やスポーツなどのノンフィクションやエッセイを手掛ける沢木耕太郎の「深夜特急01―香港・マカオ―」。東京-香港-バンコク-デリーのチケットを手に入れ、デリーからロンドンを目指す長い旅路をまとめた全6巻のうちの1巻目。旅の始まりである中国返還前の香港と、足を延ばしたマカオでの日々が描かれている。20代の若者がバッグ一つにわずかな着替えを詰めただけで、宿泊先さえ決めずに町に足を踏み出すことへの期待と不安を書き記すことで読者を引き込む。流ちょうとはいえない英語での会話と漢字での筆談やボディーランゲージでコミュニケーションが成立していくシーンは臨場感たっぷりで、旅の中での見知らぬ人との交流の楽しさを感じさせる。一つの宿を拠点に暮らすように旅することで次第に肩の力が抜け、町になじんで日常的な感覚をつかんでいく様子も興味深い。観光地はもとより市井の人々が暮らす町の情景や彼らの表情などを淡々と切り取ってみせながらも、アジアの空気感までもにじませた筆力の高さが光る。中でもマカオのカジノで賭けにのめり込んでいくシーンは、理性では抑えきれない人間の姿が浮かび上がって読み応えがある。思いのままに旅をする醍醐味をつづった快作。