特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー
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4.0 • 3件の評価
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- ¥1,400
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発行者による作品情報
デビュー前の若き日々から現在にいたるまでの問題意識、思い出の中の日本について、そして現代社会の諸問題にどう立ち向かっていくか。日系イギリス人作家カズオ・イシグロのノーベル賞受賞記念公演を書籍化。原文と土屋政雄による日本語訳を収録した対訳版!
APPLE BOOKSのレビュー
ノーベル文学賞を受賞したイギリス人作家、カズオ・イシグロの受賞記念講演録「特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー」。彼の半生をたどりつつ、繊細で深みのあるカズオ・イシグロの作品世界がいかに作られてきたか、知ることができる1冊となっている。例えば、日本で生まれ5歳で渡英した自身の中にあった "「私の」日本" は、未知なる外国に抱くようなイメージとはまた違うものであるという話。ルーツ探しがデビュー作に発露した経緯を読むと、人生の大半をイギリスで暮らしながらも彼が精神的に深く日本と関わりを持ち続けていたことがわかる。また、音楽や映画からさまざまな啓示を受け取るエピソードでは、歌がどのように複雑な感情を表現しうるかが説明され、感受性豊かな彼の世界観が伝わってくる。全編に渡って、著者の小説同様、読み手の心に強く訴えかける表現で語られる内容。イシグロは、文学とは感情を伝えることであると明言しており、文学によって世界の争いに別の視点を加えられないかと訴える。不安定な時代における小説の価値とは何かを、あらためて問い直すきっかけとなる。