



痴人の愛
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3.8 • 59件の評価
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発行者による作品情報
小悪魔的な女、ナオミに翻弄される謹厳実直を絵に描いたようなサラリーマン、河合譲治。カフェの女給だった美少女を妻に娶り、理想の女性へと育てるつもりが、彼女はいつしか破天荒で妖艶な女へと変貌していた。群がる男たちと放蕩の限りを尽くすナオミ。一度は家から追い出したものの、蠱惑的なナオミが忘れられない河合は、すべてを受け入れ愛欲の世界に溺れていく。文豪・谷崎潤一郎のマゾヒスティックな世界観がちりばめられた代表作のひとつ。1924(大正13)年に『大阪朝日新聞』で連載が始まり、「ナオミズム」という言葉が流行した。ナオミのモデルは谷崎の妻の妹とされ、谷崎は「一種の私小説」と断り書きを入れている。
APPLE BOOKSのレビュー
デカダンスと耽美に満ちた作風で知られる谷崎潤一郎が、小悪魔的な少女に翻弄(ほんろう)される男の姿を描いた代表作の一つ。少女を引き取り、自分好みの女性に育てあげた後に結婚する、という夢を持つ会社勤めの中年技師の譲治。彼はカフェで出会った15歳の少女ナオミに心奪われ、長年の夢を叶えるべく共に暮らし始める。しかし、ナオミは思いもよらぬ妖艶な女性へと成長し、譲治を翻弄。彼女に対する慈しみの愛は、いつしか束縛と嫉妬へと変わっていくのだった。『源氏物語』の光源氏と紫の上のように、男が理想の女を“育てる”物語は古今東西に存在するが、ナオミはファンタジーとしての女性像をことごとく裏切ることで、男の利己的な愛を打ち砕いていく存在だ。束縛する者とされる者の関係がたやすく逆転し、欲望の前で理性は脆(もろ)くも崩れ落ちる。その矛盾に満ちた人間の心理、感情の描写は、現代とは道徳観念も社会規範も大きく異なる時代に書かれたとは思えないほど、リアルに迫ってくる。谷崎文学の先進性に改めて驚かされる作品。