BUTTER(新潮文庫)
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4.2 • 94件の評価
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- ¥1,100
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発行者による作品情報
男たちの財産を奪い、殺害した容疑で逮捕された梶井真奈子(カジマナ)。若くも美しくもない彼女がなぜ――。週刊誌記者の町田里佳は親友の伶子の助言をもとに梶井の面会を取り付ける。フェミニストとマーガリンを嫌悪する梶井は、里佳にあることを命じる。その日以来、欲望に忠実な梶井の言動に触れるたび、里佳の内面も外見も変貌し、伶子や恋人の誠らの運命をも変えてゆく。各紙誌絶賛の社会派長編。(解説・山本一力)
APPLE BOOKSのレビュー
2007年から2009年にかけて発生した実際の連続殺人事件とその死刑囚をモチーフにした、柚木麻子の『BUTTER』。2017年の発表時には事件の特異性が人々の記憶に新しかったことも手伝って、ロングセラーになった。2024年にイギリスで英語翻訳版が出版されると、男性優位がはびこり、ルッキズム、ファットフォビア(肥満恐怖症)が浸透する日本社会を風刺した内容が評価され、英語圏でも大きな話題を集めた。海外の権威ある文学賞に次々とノミネートされたことから、改めて日本でも脚光を浴びている作品だ。週刊誌記者の町田里佳は、孤独な男たちの財産を次々と奪い、殺害した容疑で拘置所に収監された容疑者、梶井真奈子の記事を書こうと必死だった。接触の入り口は手紙だけ。美食家の梶井に取り入るために、里佳は親友の伶子のアドバイスを受け、ビーフシチューのレシピを尋ねて面会の糸口をつかもうと画策する。里佳は面会に成功するが、梶井の毒牙は里佳のみならず、周囲の人間も巻き込んでいく。仕事一途で食生活をおろそかにする里佳が、梶井が勧める“バター醤油ご飯”を口にした時の恍惚(こうこつ)の描写たるや、上等のバターを思わず買いに走りたくなるほどの見事さである。日英の視点の違いも意識して読んでほしい。