影裏
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発行者による作品情報
第157回芥川賞受賞作。
大きな崩壊を前に、目に映るものは何か。
北緯39度。会社の出向で移り住んだ岩手の地で、
ただひとり心を許したのが、同僚の日浅だった。
ともに釣りをした日々に募る追憶と寂しさ。
いつしか疎遠になった男のもう一つの顔に、
「あの日」以後、触れることになるのだが……。
樹々と川の彩りの中に、崩壊の予兆と人知れぬ思いを繊細に描き出す。
芥川賞受賞作に、単行本未収録の「廃屋の眺め」(「文學界」2017年9月号・受賞後第一作)、「陶片」(「文學界」2019年1月号)を併録。
綾野剛・松田龍平主演で映画化(大友啓史監督)、2020年初頭に公開予定。
※この電子書籍は2017月7月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
APPLE BOOKSのレビュー
第157回(2017年上半期)芥川賞受賞作。著者のデビュー作であり、東京から岩手県盛岡市に赴任してきた「わたし」の視点で描かれる短編小説。物語は「わたし」が盛岡に来てから知り合った同僚、日浅と共に川で釣りを楽しむシーンから始まる。ふとしたきっかけで知り合った2人は急速に親交を深め、釣りに行ったり酒を酌み交わしたりと濃密な日々を過ごす。しかしある日、ささいなきっかけで「わたし」と日浅の連絡が途絶えてしまい、その折に東日本大震災が起きる。一人称の物語でありながら「わたし」はほとんど感情を表さず、日々の出来事を淡々と語る。その素っ気ない語り口から、マイノリティとして生きる「わたし」の心情や、日浅がのぞかせる心の裏がかすかに見え隠れする。友情と恋愛、蜜月と別離、そして生と死。人の心の中ではっきりと境界線を引くことのできない事象を、余白のある文章で描き、認識しにくい感情の機微を浮かび上がらせている。岩手の風土も鮮やかに描かれ、岩手県盛岡市出身の大友啓史監督によって2020年に映画化された。表題作の他に2編の短編を収録。