こちらあみ‪子‬

APPLE BOOKSのレビュー

2019年に『むらさきのスカートの女』で第161回芥川賞を受賞した、今村夏子の衝撃のデビュー作『こちらあみ子』。文章修行をしたわけでもなく、小説家がなんとなくかっこよく見えたという理由で初めて書いたという本作は、第26回太宰治賞と第24回三島由紀夫賞をW受賞した。達観したような簡潔な文体で、空気を読めずに自分の思いだけで行動する小学生のあみ子を細かく描写していく。継母の書道教室に通う同級生ののり君に一目惚れしたあみ子は、彼に会うためにサボっていた学校に再び通い始める。しかし、あみ子と周囲とのコミュニケーションはいつになっても一方通行だった。幼さが残るピントのズレた会話を笑えるのも最初だけ。やがて悪意のないあみ子の言動が家族を深く傷つけ、崩壊へと導いていく。ほかにも、ある女性の思い込みを周囲が包み込む『ピクニック』、米寿を迎えた老女の決意を描く『チズさん』の短編2作を収録。不穏と明るさが入り混じった不思議な感覚に、心がざわつく小説集。