ノースライト(新潮文庫)
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- ¥950
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発行者による作品情報
北からの光線が射しこむ信濃追分のY邸。建築士・青瀬稔の最高傑作である。通じぬ電話に不審を抱き、この邸宅を訪れた青瀬は衝撃を受けた。引き渡し以降、ただの一度も住まれた形跡がないのだ。消息を絶った施主吉野の痕跡を追ううちに、日本を愛したドイツ人建築家ブルーノ・タウトの存在が浮かび上がってくる。ぶつかりあう魂。ふたつの悲劇。過去からの呼び声。横山秀夫作品史上、最も美しい謎。
APPLE BOOKSのレビュー
警察小説の名手、横山秀夫の新境地となった本作は、建築士を主人公に据えて人生を見つめ直す再生の物語。「あなた自身が住みたい家を建てて下さい」という施主の吉野の依頼に心を動かされて設計したY邸は、妻子と別れて荒れていた一級建築士の青瀬にとっても会心の出来だった。北からの柔らかな光“ノースライト”を取り入れた設計は評判を呼び、建築誌にも掲載された。だが、Y邸に人が住んだ形跡はなく、窓に向かって一脚の古ぼけた椅子が置いてあるだけだった。吉野一家は一体どこに消えたのか。 一家失踪という発端の強烈な謎と、ナチスを逃れて一時期日本に滞在したドイツの建築家ブルーノ・タウトの椅子の由来を巡る謎が交錯し、さらには自暴自棄だった青瀬を拾ってくれた建築事務所が挑む大型コンペの話が畳み掛けられる。それらが響き合い、いくつもの相似形を為すさまは壮観で、まるで小説という名の建築物を見ているよう。謎を追いながら、建築士として、夫として、父親としての自分を振り返った末に青瀬がたどりついた真相と、彼が選択した結末も胸を打つ。建築士の仕事を描きながら、家族を描く。そこに柔らかな光が降り注ぐような感動作。