夜空に浮かぶ欠けた月たち
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4.2 • 10件の評価
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- ¥1,800
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発行者による作品情報
東京の片隅、小さな二階建ての一軒家。庭に季節のハーブが植えられているここは、精神科医の夫・旬とカウンセラーの妻・さおりが営む「椎木(しいのき)メンタルクリニック」。キラキラした同級生に馴染めず学校に行けなくなってしまった女子大生、忘れっぽくて約束や締め切りを守れず苦しむサラリーマン、いつも重たい恋愛しかできない女性会社員、不妊治療を経て授かった娘をかわいいと思えない母親……。夫妻はさまざまな悩みを持つ患者にそっと寄り添い、支えていく。だが、夫妻にもある悲しい過去があって……。
APPLE BOOKSのレビュー
人生に疲れ、かたくなに閉じてしまった心を優しく解きほぐしてくれるような連作短編集。人間の心の揺らぎを巧みに描いた『夜に星を放つ』で第167回直木賞を受賞した窪美澄が本作の舞台に選んだのは、東京の片隅にたたずむメンタルクリニック。そこでまさに、月のように満ち欠けする“心”についての物語が繰り広げられていく。精神科医の夫、旬とカウンセラーの妻、さおりの二人が営むクリニックには、同級生になじめず不登校になってしまった女子大生や、仕事にコミットできない会社員、ようやく授かった娘をなぜか愛せない母親など、さまざまな悩みを抱えた人々が訪れる。しかし彼らに手を差し伸べる夫婦もまた、とある悲しみをその胸に秘めていたのだった。常に人と自分を比べ、上と下を意識してしまう現代人にとって、正しいとされる方向に導かれることは、むしろ息苦しさが増すだけだったりもする。そんな時、ただ話を聞いてくれる存在に救われた経験を持つ人も多いのではないか。本作のもう一つの舞台が“純喫茶”であることにも、私たちが心の安らぎを何に見いだしているのかが象徴されている。