方舟を燃やす
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発行者による作品情報
口さけ女はいなかった。恐怖の大王は来なかった。噂はぜんぶデマだった。一方で大災害が町を破壊し、疫病が流行し、今も戦争が起き続けている。何でもいいから何かを信じないと、今日をやり過ごすことが出来ないよ――。飛馬と不三子、縁もゆかりもなかった二人の昭和平成コロナ禍を描き、「信じる」ことの意味を問いかける傑作長篇。
APPLE BOOKSのレビュー
震災や疫病、そして戦争など、情報過多で予測不能な時代を生きる私たちに「自分で考える」ことの意味を問いかける物語。人を救うために自分の命を投げうった祖父の話を聞かされて育った柳原飛馬は、頭の片隅でノストラダムスの大予言を意識しながら、いつか訪れる危機的状況で自分も祖父のように人助けすることを考えている。一方、無関心な母親に放ったらかしにされ、文化的な素養がなく貧しい家庭に育った望月不三子は結婚と妊娠をきっかけに、豊かな家庭を作るための体にいい質素な食事法に傾倒していく。本作では生まれ育った時代も場所も異なる2人を主人公に、その成長を追うことで昭和から令和までの時代を描き出す。自分がうわさ話を信じたがために母を殺してしまったと考えている飛馬と、健康的な食事に固執したあまりに家族をバラバラにしてしまう不三子。どちらも真意は優しさであったはずなのに、自分が信じたものによって家族を傷つけてしまった2人が出会い、互いにささやかな影響を与えていく。人から与えられた情報をむやみに信じることの意味に気付いた時、初めて私たちは「考える」スタートに立つのだろう。