



春の庭
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3.5 • 13件の評価
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- ¥690
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発行者による作品情報
第151回芥川賞受賞作。「春の庭」
書下ろし&単行本未収録短篇を加え 待望の文庫化!
東京・世田谷の取り壊し間近のアパートに住む太郎は、住人の女と知り合う。
彼女は隣に建つ「水色の家」に、異様な関心を示していた。
街に積み重なる時間の中で、彼らが見つけたものとは――
第151回芥川賞に輝く表題作に、「糸」「見えない」「出かける準備」の三篇を加え、
作家の揺るぎない才能を示した小説集。
二階のベランダから女が頭を突き出し、なにかを見ている。(「春の庭」)
通りの向こうに住む女を、男が殺しに来た。(「糸」)
アパート二階、右端の部屋の住人は、眠ることがなによりの楽しみだった。(「見えない」)
電車が鉄橋を渡るときの音が、背中から響いてきた。(「出かける準備」)
何かが始まる気配。見えなかったものが見えてくる。
解説・堀江敏幸
APPLE BOOKSのレビュー
第151回(2014年上半期)芥川賞受賞作。東京の世田谷にある取り壊し間近のアパートに住む太郎は、2階に住む女性、西と知り合う。彼女は隣に建つ「水色の家」に異様な関心を示しているようだが…。筆者の体験に基づく、あるアパートを巡る記憶と出会いの物語を描いた芥川賞受賞の表題作「春の庭」の他、「糸」「見えない」「出かける準備」の3編を加えた小説集。どの作品も建物、時間、人物が主軸となって語られているが、虚飾を排した端正な文体と、人称を固定しない描写によって街の様子や建物の実在感がリアルに浮かび上がってくる。視点の変化が生むダイナミズムは、揺るぎない世界が確固として存在するのではなく、むしろ視点の変化によって世界は常に変容し得るものだということを教えてくれる。時間の流れと共に失われる、もう行けない場所や、会えない人に対するノスタルジックな感傷も、作品を趣深いものにしている。限りなく日常的な世界を描きつつ、撮影中の女優、殺人者とのすれ違い、窓から伸びた白い手、不発弾など、時に非日常が現出するシーンの描写には、どこか怪談のような味わいもある。柴崎友香という作家のみずみずしい感性に満ちあふれた作品集だ。