残像に口紅を
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発行者による作品情報
「あ」が消えると、「愛」も「あなた」もなくなった。ひとつ、またひとつと言葉が失われてゆく世界で、執筆し、飲食し、交情する小説家。筒井康隆、究極の実験的長篇。
APPLE BOOKSのレビュー
さまざまな不条理を自身の小説世界に落とし込み、目の前の現実が反転するような体験を読者にもたらしてきた鬼才、筒井康隆。彼が本作で挑んだのは、物語が進むにつれて“使える文字が徐々に減っていく”というユニークなコンセプトだ。広義ではSF小説といえるが、むしろ小説というフィクションの解体をもくろむ実験として捉えるべきだろう。言葉の消滅は記憶の消滅を促し、記憶によってかたどられていた人間らしさ、そして最終的には人間の肉体自体を霧散させていく。主人公の佐治勝夫は、そんな実験のパーツであることを自覚したメタ的なキャラクターだ。自分や家族の“生”の輪郭がぼやけていく過程を傍観する彼のまなざしは、いつしか読者の視点と重なっていく。前半の重厚で豊潤な言葉の奔流と、後半のアブストラクトで記号的な言葉の残骸のギャップはすさまじい。読後、想像だにしなかった着地点に放置された自分に驚くはずだ。IT技術の発展とともにバーチャルがリアルを急速に侵食していく現代が持つ時代性に、期せずしてマッチした作品。1989年初版の本作が、動画SNSでのバズを通じて若い世代にも再び読まれることになったのは必然なのかもしれない。
カスタマーレビュー
ぱそぱん
、
のめり込む
一気に読み進めてしまいました。
終盤にかけてのスピード感もあり好きな小説でした。