空白を満たしなさい(上)
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- ¥750
発行者による作品情報
ある夜、勤務先の会議室で目醒めた土屋徹生は、帰宅後、妻から「あなたは3年前に死んだはず」と告げられる。死因は「自殺」。家族はそのため心に深い傷を負っていた。しかし、息子が生まれ、仕事も順調だった当時、自殺する理由などない徹生は、殺されたのではと疑う。そして浮かび上がる犯人の記憶……。
APPLE BOOKSのレビュー
京都大学在学中に発表した『日蝕』で第120回芥川賞を受賞した平野啓一郎が、36歳で早逝した実父の年齢になったら書くと構想していた『空白を満たしなさい』。身近な人を亡くした人が願う「もう一度会いたい」という思いを投影して平野が描くのは、各地で死者が生き返り、“復生者”として生活する社会。すべての人が生き返るわけでもなく、理由も条件も分からない。死んだことすら記憶にない徹生もその一人だった。突然よみがえったものの、妻や上司、仲間はあの日から今日まで、徹生の死に混乱していた。幸せな家庭を築き、仕事も順調だったはずの自分に何が起きたのか。上巻は徹生自身が死の真相を探し求めるサスペンス色の強い内容で、生々しい描写に息が詰まる。下巻では平野が提唱する“分人主義”と幸福論へとベクトルがくるり。目の前の曇りが取れ、やるべきことがクリアになる徹生の目覚めが心地よい。平野の新書『私とは何か 「個人」から「分人」へ』とザッピングして読むと理解が深まるだろう。