遠い山なみの光〔新版〕
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4.5 • 2件の評価
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- ¥1,300
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発行者による作品情報
広瀬すず主演で映画化! 2025年夏公開
英国で暮らす悦子は、娘を喪い、人生を振り返る。戦後の長崎で出会った母娘との記憶はやがて不穏の色を濃くしていく。映画化原作
APPLE BOOKSのレビュー
ノーベル文学賞受賞作家、カズオ・イシグロの長編デビュー作であり、2025年実写化の映画の原作。戦後復興期の長崎から海を渡り、現在はイギリスの田舎町で暮らしている悦子。長女の景子を自殺で失い喪失感に苛まれる悦子の元へ、ロンドンに住む次女のニキが訪ねてくる。ニキと数日間を共にする中で、悦子は長崎での日々を振り返る。夫の二郎と暮らし、景子を妊娠していた悦子は、シングルマザーの佐知子とその娘、万里子と出会い親しくなる。米兵の恋人と付き合う奔放な佐知子は、何度も裏切られる様子を見ている万里子が不満に思っていることを知りながらも、彼とアメリカに移り住む夢を捨てきれない。一方で悦子は夫より、小学校の元校長で義父の“緒方さん”を慕っているが、緒方は戦後の価値観の変化に嫌疑的だった…。悦子と佐知子、佐知子と万里子、ニキと悦子など、決して交差することなくすれ違う会話の描写の巧みさ、価値観の転換期に遭遇した人物の戸惑いと後悔を描く“信頼できない語り手”の手法など、後年の作品に通じる要素が既に垣間見えるが、悦子が語る長崎の港を望む稲佐山の美しい記憶は、作者にとっても大切なものであるに違いない。