銀河鉄道の父
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発行者による作品情報
第158回直木賞受賞作、待望の文庫化!
『銀河鉄道の夜』『注文の多い料理店』など数多くの傑作を残してきた宮沢賢治。
清貧なイメージで知られる彼だが、その父・政次郎の目を通して語られる彼はひと味違う。
家業の質屋は継ぎたがらず、「本を買いたい」「製飴工場をつくってみたい」など理由をつけては、政次郎に金を無心する始末。
普通の父親なら、愛想を尽かしてしまうところ。
しかし、そんなドラ息子の賢治でも、政次郎は愛想を尽かさずに、ただ見守り続ける。
その裏には、厳しくも優しい“父の愛”があった。やがて、賢治は作家としての活動を始めていくことになるが――。
天才・宮沢賢治を、父の目線から描いた究極の一冊。
APPLE BOOKSのレビュー
『雨ニモマケズ』『銀河鉄道の夜』で知られる国民的詩人/童話作家の宮沢賢治は駄目息子だったのか。息子への深い愛情を抱きながら、その行く末に苦悩する父、政次郎の目を通して、賢治の誕生から旅立ちまでを描いた第158回直木賞受賞作。役所広司、菅田将暉主演で2023年に映画化となった。父から継いだ家業の質屋を大きくした裕福な実業家で、町会議員でもある政次郎は、長男、賢治の誕生を喜んだ。幼い賢治が赤痢で入院すれば、感染の危険も顧みず、病院に泊まり込んで看病する溺愛ぶり。だが、賢治には家業を継ぐ気はなく、製飴工場や人造宝石の事業を始めると言いながら、当てにするのは父の資金。かと思えば、浄土真宗の父に逆らうように日蓮宗派の国柱会に入り、布教活動に熱中する。親泣かせの賢治と対立しながら、見捨てることもできない政次郎の葛藤がユーモラスにつづられる。賢治の最愛の妹であり、理解者であったトシの死後、詩集『春と修羅』を政次郎が一晩かけて読み返し、「賢治の人生が、ぜんぶある」「ことばの人造宝石をつくりあげた」と悟る場面は心を打たれる。家父長制の強い時代に近代的な「父でありすぎる」政次郎による賢治への作家論としても秀逸な、家族小説の傑作。