Wの悲劇
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- ¥660
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発行者による作品情報
新雪に包まれた山中湖畔。日本有数の製薬会社・和辻薬品会長の別荘で、突然、悲劇の幕は開いた! 和辻家のだれからも愛されている女子大生の摩子が、大伯父に当たる当主の与兵衛を刺殺したのだ。一族は外部からの犯行に見せかけるため、摩子の家庭教師・一条春生に協力を要請し、偽装工作を……。名作『Yの悲劇』に挑戦する、著者会心の本格長編推理傑作!
APPLE BOOKSのレビュー
社会派ミステリーを多く手掛けた夏樹静子の「Wの悲劇」。アメリカの推理作家エラリー・クイーンの「Xの悲劇」他に対するオマージュ的な長編推理小説。大手製薬会社の一族が集まる冬の山荘で、当主を手に掛けたと女子大生の摩子が自白し、悲劇の幕が上がる。摩子を守ろうと一同が施す数々の偽装工作の描写は、数多くのミステリーを上梓してきた豊富な経験に裏打ちされており、なるほどと唸らされる。相続に関する民法を絡めた展開では、弁護士や検事を主人公に据えた作品も多い作家らしさを発揮。家の名誉と尊厳を守ろうとする当主の妻、金に困り相続遺産を当てにする弟や甥、出生に秘密を持つ主治医など、複雑に交錯する人間模様と、それぞれの内側にある欲や業を繊細に紡ぎ出す。語り部として登場する、摩子の家庭教師の春生や個性的な警察関係者の人物像もくっきりと描かれ、全体に膨らみを与えている。物語は後半に向かって加速度を増し、二転三転しつつ真実が明らかになっていく。タイトルに込められた思いが胸に迫るクライマックスは秀逸。